• 健康経営
  • 2021.05.03 (最終更新日:2022.03.26)

改正された健康増進法で望まない受動喫煙をなくすのも健康経営の一つ

目次

望まない受動喫煙とは?

受動喫煙 昭和の時代、タバコを吸うことは悪いことではなく、大人であれば吸って当たり前という時代でした。むしろ吸っていない人に対して「タバコも吸えないのか」というぐらい、日常的なものだったので、家の中や飲食店だけではなくオフィスでも自分のデスクで吸っていた時代がありました。今考えてみるとありえない時代です。

それがだんだんと喫煙スペースができ、飲食店などでも分煙がすすめられるようになり、喫煙スペース以外での喫煙や歩きたばこは罰金が発生するようになり、健康増進法でさらに喫煙に関する厳しい決まりができました。

どうしてここまで喫煙者に対して厳しい対応がとられるようになったのかというと、それは「望まない受動喫煙」です。

喫煙者がタバコを吸って健康を害してしまっても、それは本人の問題です。健康的な体が欲しいと思えば、禁煙をすればいいだけのことなのですが、受動喫煙はタバコを吸っていない人に害が生じてしまうということが問題なのです。

オフィスの自分のデスクでタバコを吸っていた時代、こういった受動喫煙が大きな問題を起こしていました。タバコを吸っていないのに、タバコを吸っている人たちと一緒に仕事をしているだけで、健康被害が出ていたからです。

タバコを吸っている人は、一人で吸っていれば主流煙のみを吸っていますが、複数人で吸っていれば、主流煙と副流煙を吸うことになります。そしてタバコを吸っていない人は、副流煙を吸うことになります。副流煙で起こると言われているのが、
・脳卒中
・肺がん
・慢性閉塞性肺疾患や肺気腫などの既にある呼吸器疾患の悪化
・喘息の誘発と悪化
・虚血性心疾患、狭心症
・妊娠:低出生体重児または妊娠期間に比して小さい胎児
・早産
・子どもの場合は、
・中耳炎(慢性中耳炎)
・喘息の誘発と悪化
・慢性の呼吸器症状(喘鳴、咳、息切れ)
・肺機能の低下
・乳幼児突然死症候群(SIDS)
などと言われています。

受動喫煙を望んでいる人はどこにもいません。だからこそ、仕事場であれば経営者が受動喫煙を防ぐように考えないといけないというのが、2020年4月より施行された改正後の健康増進法です。

改正された健康増進法で何が変わったのか

全面禁煙 改正健康増進法は2019年から段階的に場所によって行われてきました。一番初めに施行されたのが2019年1月24日から始まった「喫煙を行う場合は周囲の状況に配慮」というものです。実はこれ、公共施設や学校、飲食店、オフィスよりも先に野外や家庭での取り組みが施行されました。これがどういうものかというと、できるだけ周囲に人がいない場所での喫煙をするように配慮したり、子どもや患者等、特に配慮が必要な人が集まる場所や近くにいる場所での喫煙をしないように配慮というものです。ただし、野外や各家庭でのことですので、配慮をしていないからと言って罰則が下されるわけではありません。なるべくやめてくださいね、という程度の法律です。ただこう言った法律ができたということを知らない喫煙者は多くいるのではないでしょうか。

続いて施行されたのが2019年7月1日からの「第一種施設での敷地内禁煙」です。
第一種施設がどこを指すかというと、
・学校
・児童福祉施設
・病院、診療所
・行政機関の庁舎
などです。
以上の第一種施設では敷地内では禁煙することが決められています。ただし、敷地内であっても野外で受動喫煙を防止するために必要な措置が取られた場所を作れば、喫煙場所を設置することはできます。
屋内や野外でも受動喫煙防止措置が完全ではない場合は、喫煙場所とは認められていません。

最後に2020年4月1日に施行されたのは「第二種施設での屋内禁煙」です。第二種施設というのは、
・事務所(オフィス)
・工場
・ホテル、旅館
・飲食店
・旅客運送用事業船舶、鉄道
・国会
・裁判所
などです。

ただし、経過措置として既存の経営規模の小さな飲食店(個人または中小企業が経営している客席面積100㎡以下の店)は喫煙可能な場所である旨を掲示することにより店内での喫煙も可能ということにしていますが、客・従業員ともに20歳未満は立ち入り禁止などの注意がついています。また喫煙を主目的とする施設(喫煙を主目的とするバー、スナックや店内で喫煙可能なたばこ販売店、公衆喫煙所など)も経過措置の店と同じで、施設内での喫煙が条件付きで可能です。

それ以外の「第二種施設での屋内禁煙」ではどんなことをしなくてはいけないのかというと、屋内での喫煙は禁止されています。ただし、喫煙専用室を設置(飲食不可)したり、加熱式たばこ専用の喫煙室を設置(飲食可)したりすることは可能です。第二種施設での屋内禁煙であっても、経営判断により選択ができます。これまでも、禁煙、喫煙で場所を仕切っていたお店もありますが、今回の「第二種施設での屋内禁煙」では仕切り方に違いがあります。それまでは、禁煙席と喫煙席を分けて、間仕切りがあったとしても天井側や床側が開いていたりして、結局はどちらの席に座っても同じ空気を吸っている状態でした。それが、第二種施設での屋内禁煙になったことで、喫煙専用室であっても、加熱式たばこ専用の喫煙室であっても、きちんと四方を囲んだ状態にし、部屋の中は換気ができるようにしなければいけないという違いがあります。

この部屋を設置するのに場所もない、費用もないお店もあるということで、経過措置が適用される店もできたということです。

職場における望まない受動喫煙

職場 受動喫煙 望まない受動喫煙については改正健康増進法でも厳しく書かれていますが、これは健康経営優良法人の必須項目にもあります。「受動喫煙対策」という項目で、実際に受動喫煙対策ができているか否かで、適合不適合の判断がされます。この項目は必須ですので、受動喫煙対策ができていない企業は、その時点で健康経営優良法人の認定を取ることができません。

また改正健康増進法でもあったように、全面禁煙もしくは対策の取れた喫煙室を設置の場合でも適合とされますが、点数配分としては屋内屋外ともに全面禁煙を行っている方が評価は高くなります。

喫煙室を設置することにより、望まない受動喫煙をなくすことはできますが、タバコを吸っている従業員がいるということは、その従業員が健康になるチャンスを企業が見逃しているということに繋がるからです。
従業員の健康を考えるのが健康経営ですが、この「従業員」というのは、特定の従業員ではなく、自分が経営している企業に勤めている人全員のことを指しています。分煙がこれまであいまいだった企業が、いきなりオフィス内を全面禁煙にしてしまうと不満が残ってしまうかもしれません。いつかは屋内も屋外も全面禁煙ができる環境を作れるように、徐々にでも喫煙対策も考えていくと、健康経営の質も上がっていくのではないでしょうか。

受動喫煙の被害がどのようなものなのかを改めて考える

受動喫煙 被害 受動喫煙によって、どんな病気を引き起こすのかについては、最初の項目でもお伝えしました。ですが、どんな病気が発症する確率がどれぐらいあるのかもすでに数値として出ています。
厚生労働省が平成27年に出した報告書によると、受動喫煙によって脳卒中になる確率が1.3倍、肺がんになる確率が1.3倍、虚血性心疾患が1.2倍、乳幼児突然死症候群が4.7倍となっています。さらに受動喫煙による年間の死亡者数は推定約1万5千人と言われており、その半数以上が脳卒中です。

もちろん望まない受動喫煙が起こるのはオフィスだけではありません。従業員が帰る各家庭でも起こりえることです。喫煙者、非喫煙者に受動喫煙がどのようなものなのかの教育指導も、企業の務めの一つとして、今では考えられています。そんなことは子どもでも知っていると思って放置するのではなく、自社に勤める従業員が自宅で望まない受動喫煙を行ったり、望まない受動喫煙を強いられている可能性もあると考えて、受動喫煙がどのようなものなのかを改めて知ってもらう必要があります。

喫煙や受動喫煙に対する対策は、健康経営での評価の一つにもなりえます。セミナーやWEBで動画を配信するだけでも、従業員の意識付けにもなります。ぜひ検討をしてみてください。

どうしてこの時期に健康増進法は改正されたのか

東京オリンピック 最後に健康増進法の改正が決定したのは2018年です。それまでにも、日本国内では歩きたばこに罰金を科すような法律ができたり、望まない受動喫煙を減らそうという動きがありました。そんな中で2018年に健康増進法の改正が決まったということは、それほど日本人の意識が低かったということと、この時点では2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されると想定していたからというのも考えられます。実際、2020年には行われませんでしたが、受動喫煙や喫煙について改めて考えるいい機会となりました。

ですが改正健康増進法が施行された時に各企業では受動喫煙対策について、それほど大きな問題にならなかったというのもあります。一番大きな問題として捉えていたのは飲食店だったからです。ではなぜ、企業ではそれほど大きな問題にならなかったのかというと、すでに「第二種施設での屋内禁煙」ができている企業がほとんどだったからではないでしょうか?

昭和の頃は、確かに分煙という意識はなく、デスクでタバコを吸っている人がいますが、令和の時代に自分のデスクでタバコを吸う人はほぼいません。ただ喫煙室のある企業は、改正健康増進法で示された喫煙室ほどしっかりしたものを作っていなかったという企業はあったかもしれません。それでも、普段から健康経営に取り組んでいる企業では、当たり前のこととして行っているので、法が改正されても焦らずに済むというのはあったでしょう。

この先も健康についての法案は増えていくかもしれません。ですが、健康経営に取り組む企業では、先回りして対策を行っているので、苦労をしないという利点があります。健康経営は、先を見通した経営方法と言えます。

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