- 健康経営
- 2022.07.06
健やかに働くために、企業が取るべきメンタルヘルス対策とは?
働いている方の約6割が「仕事で強いストレスを感じる」と答えるなど、メンタルヘルスを取り巻く環境は変化しています。労災予防や働きやすい職場を作るために、メンタルヘルスケアについて対策を立てておきましょう。
労災認定から見るメンタル不調者の現状と企業のリスク
近年、業務による心理的負荷を原因として、精神障害や自殺による労災認定が増加しています。そうした現状を踏まえて、社内一丸となって有効性のあるメンタルヘルスケアを行うことが大切です。
精神障害の発病に関与したと考えられる出来事の内訳
精神障害に係る労災の支給決定件数は令和2年度の調査で過去最高の608件と年々増加しています。
令和2年度「過労死等の労災補償状況」の精神障害に関する出来事別の支給決定件数の内訳を見ていくと、
- 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた
- 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした
- 同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた
などが記載されています。参考:過労死等の労災補償状況(令和2年度)
同僚もしくは上司などとの関係性やトラブルといったものが、過労死や精神障害の発症に関与しています。
普段からいかに職場の人間関係を円滑なものにするか、そうした風土が育っているかが重要なことが分かります。
精神疾患の労災認定基準や考え方
メンタルヘルスケアが適切に行われずに、労災認定となる場合、どのような基準になっているか頭に入れておくと、より具体的で迅速な対策が取れると思います。考え方としては、精神障害が発症するおよそ6ヶ月前から発症するまでの間、仕事による精神的な苦痛や負担の事実関係を確認して、その内容によって認定されることとなります。
具体的には下記のような事案が、発病する6ヶ月前の間に起こっていた場合、労災認定の対象になる可能性が考えられます。
- 上司や同僚から暴言暴行を頻繁に来ていた
- 上司や同僚からいじめや嫌がらせを頻繁に受けていた
- 上司や同僚からセクハラやわいせつ行為を受けた
- 些細なミスでも人格否定をするような叱責を頻繁に受けた
- 脅迫まがいの退職要求をされた
- 生死に関わる業務上の怪我や病気を持った
- 会社の経営に直結するような重大なミスをして、事後処理まで行った
また上記以外にも長時間労働の程度によっても、業務による強い心理的負荷があったと認められます。
自殺や精神疾患となった原因が、仕事内容や仕事環境・職場の人間関係にあると認定された場合、企業の責任は非常に重くなります。そうしたリスク対策も勿論大切ですが、一番は従業員のパフォーマンス向上のために、メンタルヘルスケアに取り組んでいきましょう。
企業として取るべきメンタルヘルス対策とは
総合的なメンタルヘルスケアを進めるには、組織的・計画的な活動が必要です。
対策を推進するために、厚生労働省が推進する「職場における心の健康づくり」の策定・実施を4つのケアで行っていきましょう。
職場における心の健康づくりと4つのケア
- 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明
- 事業場における心の健康づくりの体制整備に関すること
- 事業における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
- メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること ⑤労働者の健康情報保護に関すること
- 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
- その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
心の健康づくり計画を策定する上で、衛生委員会での調査や審議は非常に重要です。衛生委員会を各部署・部門スタッフの健康状態把握の場として活用し、情報や対策を共有する場として活用することで一貫性のあるメンタルへルスケア対策を行っていきましょう。
4つのケアの重要性
4つのケアとは、メンタルヘルスケアを行う四つの主体のことです。それぞれどんな主体で行うのかを確認していきましょう。
①セルフケア
セルフケアとは労働者が自らストレスやメンタルヘルスに対して理解し、予防や対処を行うことです。具体的には
- ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
- ストレスチェックなどを活用したストレスへの気づき
- ストレスへの対処法
これら労働者自身が行えるセルフケアを促すために、教育研修や情報提供を行うなど支援を進めていくことが重要です。またストレス発散のための機会を創出することも重要です。
②ラインによるケア
ラインによるケアとは、管理監督者が行うメンタルヘルス対策です。主な内容としては
- 働きやすい職場環境の改善
- 労働者からの相談対応
- 職場復帰における支援 など様々です。
このラインによるケアが非常に重要です。なぜならメンタルヘルス不調者の早期発見や、不調者の継続的なフォローアップに高頻度で関わるからです。
ラインでの対策を機能させるポイントとしては、管理監督者自身が話しやすい雰囲気を作っておくことです。
いつも忙しなく動いていたり、自分からスタッフへ関わる頻度が少ないとスタッフ自身が遠慮してしまったり、相談しにくく感じてしまい、結果的に発見が遅れてしまう可能性があります。
管理監督者はスタッフに積極的に話しかけたり、話しやすい雰囲気づくりを心がけましょう。
②-1:ラインによるケアでのポイント
その上でスタッフの不調や「変化」に気づくことで、メンタルヘルス不調の早期発見に努めましょう。変化とは以下のようなものを指します。
- 遅刻・相対・欠勤が増えた
- 元気がなく、表情が乏しい
- ミスやパフォーマンス低下が目立つ
- 口数が減った(または増えた)
- 報告・連絡・相談が少なくなった
- 些細なことで腹を立てるようになった
- 身だしなみが悪くなった
上記のような変化に気づいた管理監督者は、スタッフの話を聞き状態把握に努めましょう。
スタッフが心理的安全性を感じながら話ができるような環境、態度を心がける必要があります。
企業によっては「1on1ミーティング」を導入している企業もあるかもしれません。 1on1ミーティングのように定期的に上司とスタッフが話す時間を確保しておくことで、相談のタイミングとしても活用しやすくなります。
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
3つ目のケアは事業所内産業保健スタッフによるケアです。事業場内産業保健スタッフはセルフケア及び、ラインケアによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行ういます。内容としては、
- 労働者・管理監督者の支援
- 具体的なメンタルヘルスケア対策の立案・推進
- 安全衛生委員会等での調査審議
- メンタルヘルス対策の実務担当者の選任
- 教育研修や情報提供
- 相談体制の整備
といったものです。
事業所内の産業保健スタッフとしては、産業医や産業保健師、衛生管理者などがこれにあたります。衛生管理者に関しては、医療やメンタルヘルスの専門家ではない方が従事している可能性もありますが、適切な情報収集や対策を講じ、必要に応じて事業所外資源の活用を促すなど橋渡し的な役割も重要です。
④事業場外資源によるケア
4つ目としては事業場外、いわゆる専門家や専門機関を活用したケアになります。
内容としては、以下の通りです。
- 定期的なストレスチェックやその後の保健指導
- 情報提供や助言を受けるなどサービスの活用
- 職場復帰における支援など
心の健康づくり計画と4つのケアとの関係性
企業で行うべきメンタルヘルスの具体的取り組み
「心の健康づくり」と「4つのケア」を踏まえて、具体的にどのような取り組みを行っていくことが望ましいかを見ていきましょう。
①メンタルヘルスケア推進のための教育研修・情報提供
セルフケア・ラインによるケア・産業保健スタッフに関わるそれぞれの職務に応じた研修や情報提供を行いましょう。
スタッフによるセルフケアであれば、ストレスに対処する方法を伝える、ラインケアでに関わる管理監督者であればコーチング方法や面談方法を伝えるなど、社内掲示物や社内研修を充実させていきましょう。
また各部署内でのメンタルヘルスケアの教育責任者を任命したり、年間のメンタルヘルスに関わる研修計画を作成することも重要です。
②職場環境の把握・改善
人間関係を含めた職場の環境が、メンタルヘルスに影響を及ぼすことが知られています。エアコンや調光、椅子の高さやパソコンの位置など身体的なストレスを受け続けた結果、メンタルヘルスの不調を感じる可能性もあるため、そういった観点からも職場の環境改善が必要です。
また労働時間や連続作業時間も、疲労感からストレスを増やす可能性もあります。仕事の質・量の把握をスタッフ自身でも、ラインによるケアを行うために業務量把握を行い、仕事量の分散化を図っていきましょう。
ハラスメント含む人間関係や人事労務管理等をするためには、適切に現状把握しましょう。
③メンタルヘルス不調の気づきと対応
実際のメンタル不調に陥る労働者が発生した場合に、早期発見と適切な対応を取ることが必要です。個人情報に十分留意しながら対応を進めていきましょう。
・労働者からの相談とセルフチェック:
4つのケアにおけるセルフケアを推進するために必要な制度や環境調整を行うことが重要です。特に年1回のストレスチェックの時期に、希望者への相談機会を作成するなど、メンタルヘルスに関して気軽に相談できる制度を作成していきましょう。
・管理監督者・事業所内保健スタッフによる相談対応:
管理監督者は日常的に労働者からの自発的な相談に対応するように努めましょう。また自らも働きかけ、面談の機会を作る・話しかけやすい雰囲気づくりをするなど、コミュニケーションの頻度を高めていくことも重要です。
労働者から相談を受けた場合、話をよく聞き、適切な情報提供を行います。状況に応じて事業所内産業保健スタッフ等への相談・受診を促しましょう。
・労働者家族による気づき、支援:
労働者の家族に対しても、ストレスやメンタルヘルスケアの情報提供を行いましょう。社内報や家族向け社内報などを活用することも大切です。スタッフの精神状態はそのスタッフの家族が把握できている可能性が高いので、家族による気づきも踏まえつつ、メンタルヘルスケアに取り組んでいきましょう。
④職場復帰支援
衛生委員会や産業医を含めた職場復帰支援プログラムを策定することや、復帰時の短時間勤務・フレックス勤務等の整備などを行い、労働者に対する支援を実施しましょう。
終わりに
メンタルヘルスケアを推進するには、労働者自身・管理監督者・事業所内保健スタッフなど様々なスタッフが連携して進めていくことが重要です。スムーズな連携が取れるための体勢作りと合わせて、メンタルの不調があることを話せる雰囲気にすることが、早期発見や重症化予防につながります。
この機会に心の健康づくり計画を策定し、メンタルヘルスケアについての体勢作りを進めていきましょう。
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