- 健康経営
- 2022.08.07
うちの会社は大丈夫?社員が長く働きやすい職場作りのポイントとは
社員に長く活躍してもらうことが重要な理由とは
現在の日本の定年は65歳となっていますが、これからはそれ以上働くことが当たり前になることが考えられます。その理由と重要性を説明します。
①生涯現役社会の推進と高齢者雇用の現状
令和2年「高年齢者の雇用状況」という厚生労働省が発表したデータによると、 調査対象の企業のうち、66歳以上働ける制度のある企業が33.4%、70歳以上働ける制度のある企業が31.5%、定年制度が廃止されている企業は2.7%と言うデータがあります。
つまり1/3程度の企業は70歳以上まで働くことが可能な制度に変わってきているということです。
その背景としては、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」によって年齢に関係なく働き続けることのできる生涯現役社会の実現を目指していることが挙げられます。
今後も厚生労働省は雇用確保措置を実施していない企業に対して、都道府県の労働局やハローワークによる個別指導を実施していくとしています。
ではなぜ、生涯現役社会を目指しているのでしょうか。
②日本の長期化する人材不足
生涯現役社会を押し進めている理由の一つとして、人口減少からくる人材不足・労働人口の低下が挙げられます。
令和2年の国勢調査において示された銀行基本集計結果を見ると、 年齢3区分別での人口割合で生産年齢人口(15歳から64歳)の割合が1970年以降初めて60%を下回ったことが報告されています。
つまり65歳を定年と考えてしまうと、日本における働き手世代というものが 急速に減少していることがわかります。
年金や社会保障を考えると、一人の生産年齢人口者が一人の高齢者を支えるといういわゆる肩車型社会となり社会保障等の維持が困難となることが懸念されています。
さらに輪をかけて少子化も進んでいるため、今後ますます従業員の確保が困難になることが予測されています。
ここで国としても、今働いている方に少しでも長く働き、活躍してもらう方向へ舵を切っていることが考えられます。
③高年齢者雇用のメリット
そうした理由を踏まえ、国としても様々な補助を行い、高年齢者雇用の促進を行っています。
高年齢者を雇用するメリットは先に挙げた労働人口確保以外にも様々なメリットがあります。メリットを最大限に生かしながら高年齢者に活躍してもらうために、どのようなメリットがあるか確認していきましょう。
・多様な価値観の一部として(ダイバーシティ)
職場内に幅広い年齢の方がいるというのは、多様な価値観やダイバーシティの一つだと言えます。特に体に優しい職場環境を作っていくという点で、高齢従業員の視点や意見は参考になることが考えられます。
具体的には、働き手世代の方にとっては、体への負担が感じない職場環境であっても、高年齢労働者の方には痛みや作業のしづらさを感じることがあるからです。
例えば、床面の硬さが固いことで膝痛や腰痛を伴ったり、台の高さが高いもしくは低いことで腰への負担を感じる、また作業の手順や方法などが身体的な負担に繋がるためです。
職場内に幅広い年齢の方がいることで、そうした方々の視点や身体状況を配慮した体に優しい職場環境を作ることで、働き手世代にとっても働きやすい環境づくりが行えれば、双方にとってメリットがあります。そうした方々の意見を聴取しながら作業環境の改善にも努めてみましょう。
・国からの助成がある
高齢者が安心して安全に働くための職場環境の整備等に要する費用の補助としてエイジフレンドリー補助金というものが令和2年度より新設されています。
- 60歳以上の高年齢労働者を雇用している中小企業の事業者
- 補助額は補助率1/2上限100万円
- 対象としては高年齢労働者の労働災害防止のために使われたケース
例えば作業場との段差解消や手すりの設置、滑り止めの設置、介護現場におけるリフトの導入、高年齢者の特性に配慮した安全衛生教育など とされています。
全ての申請者に交付されるものではありませんが、幅広いジャンルで活用が可能なので職場環境の改善の後押しとして活用するのも良いかもしれません。
また他にも65歳超雇用推進助成金というものも存在します。
この助成金は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するため、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成するものであり、次の3コースで構成されています。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
・ 知見や経験等の活用
今までその業界で長く活躍してこられた高年齢者だからこそ、持ち得てている知見や人的ネットワークを活用して働くことが可能です。 ただどの業界においても進歩や技術革新など新しい取り組みが起こりやすいため、高年齢従業員に関しても知見のアップデート等は行ってもらう必要があります。
また社内で高年齢者が役職などをずっと勤めていることで、職場内の雰囲気や昇進の妨げになることも考えられます。組織図内での立ち位置や配置などを考慮しながら、最大限に活躍できる場を見つけていきましょう。
働くのが困難になる理由と原因
企業側・労働者共に長く働いて欲しいと思っていたとしても、加齢に伴う様々な理由(病気・怪我)などで継続した就業が困難になることが見受けられます。この項目ではそういった原因について把握して企業としても労働者側に啓発し、元気で長く勤めていただくことを目指しましょう。
フレイルや ロコモティブシンドロームなど運動機能の障害
年をとるにつれて関節や筋肉、神経なども衰えが見られてきます。そうした身体機能や精神機能、社会的な繋がりなどが衰えて要介護状態になる手前のことをフレイル(虚弱)と言います。
フレイルには主に体重減少・活動性低下・歩行速度低下・疲れやすさ・筋力低下などが特徴として挙げられ、また意欲や人との関わりなども低下すると言われています。
ただフレイルは進行することありますが、可逆的な変化すなわち健康な状態に近づくことも出来ると言われています。
またフレイルの中で、特に関節や筋肉など衰えて痛みやふらつき、転びやすいなど「立つ」「歩く」という移動機能に障害が出ている状態をロコモティブシンドロームと言います。
職場においては、どちらも適切な配置や身体への負荷量を考慮することで働き続けれる職場作りと、フレイルやロコモになっていないかを定期的にチェックする仕組みの導入が求められます。これらに対して、あまり機能低下しない能力に、
- 手や上腕の筋力手や上腕の筋力
- 筋作業持久力
- 分析・判断能力
- 計算能力 など
が挙げられます。ロコモなどがあっても、長年の経験や知識・技術を使いナレッジワークを行ったり、足腰に負担の少ない作業環境で慣れた業務を行うなど工夫していくことも重要です。
生活習慣病発症リスクの増加
加齢、長年の生活習慣の影響により疾病が増加することが考えられます。加齢に伴いリスクが増加するものに- 高血圧
- 糖尿病
などが増加し、それが脳血管障害やがんなどの発症リスクが高まります。
こうした発症リスクを下げるためにも、定期的な健康診断の受診率向上や人間ドックの推奨など企業として取れる対策を取っていきましょう。
労働災害の増加
高年齢労働者に最も多い労働災害は転倒・転落です。この原因として、先に述べたフレイルやロコモティブシンドロームなどの身体機能の低下がこの問題に関わっています。
労働災害の件数は全体として下がっていますが、高年齢労働者では 転倒墜落転落の2つで首相災害全体の約半分を占めるなど高水準にあることが報告されています。
また50歳未満と比べた場合の五十歳以上の労働者の労働災害の発生リスクの増加幅も、転倒で3.5倍、墜落転落で2倍と際立って大きくなっています。それに合わせて、休業見込期間も高年齢労働者になれば長くなるため、一度労災が発生して休業等になった場合の人手不足問題も長期間に渡ります。
こうした高齢になると表れる身体的特性についても企業としても把握し、健康管理や転倒・転落のリスク管理と対策を推進してくことが重要です。
エイジフレンドリー を考える
で述べたような高齢従業員の問題に対して厚生労働省はガイドラインを出しております。
厚生労働省では「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称エイジフレンドリーガイドライン)という名称で高齢者の働きやすい仕組み作りの指針を作成しています。
今回はガイドラインに沿いながら、長く健康に働いてもらうための仕組み作りについて考えていきましょう。
安全衛生管理体制の確立
経営トップによる方針表明と体制の整備作りを行います。特に高年齢労働者が職場で気付いた、労働安全衛生に関するリスクや不具合・働きにくさなどを洗い出し、実際の対策に落とし込むようなPDCAサイクルを回すことが重要です。
職場環境の改善
高齢な方が働きやすい要素として、職場の環境調整を行っていくことも重要です。
作業台の高さや床面の硬さなどによって、膝や肩にかかる負担は軽減させることができます。
従業員に合わせて環境調整を密に行うことで、今働いている従業員の方の筋肉や関節系の問題が軽減する可能性もあります。
体に優しい職場づくりをするためのモニターとして活躍していただくことも重要です。
高齢従業員の健康や体力の状況の把握
労働安全衛生法に定められている雇い入れ時、及び定期の健康診断を確実に実施することも重要です。
また、前述したロコモフレイルを把握するためには職場の健康診断にプラスして従業員の体力筋肉や骨の年齢を大まかに予測し、従業員自身にも健康啓発を促す必要があります、
体力チェックなどで用いることができる検査は複数ありますが、例えば日本整形外科学会が提唱しているロコモをチェックする項目は比較的簡単に行うことができます。いくつか資料として提示しておきます。
・ロコモ度テスト:立ち上がりテストと2ステップテスト
・フレイルのチェック方法:健康長寿ネット
これらを労働安全衛生教育とともに年に1回以上おこなっていくことで。会社としても従業員としても体力の把握や転倒リスクを把握して、勤務内容や時間・状態などをすり合わせていくことが重要です。
高齢従業員の健康や体力の状況に応じた対応
前述した体力テストと本人の身体的な訴えを踏まえた対策が重要です。労働時間の調整や深夜勤務の減少、作業の配置転換なども必要に応じて対応していきましょう。
また休息の頻度なども体力や身体面の愁訴を踏まえて調整していけるとよいでしょう。 立ち仕事でも座り仕事でも、連続した作業時間が長くなることで腰や膝などへの負担が変化してくることが報告されています。
一般の労働者では休憩が必要ないケースでも、高齢従業員の場合には連続作業時間を設定するなど、頬の痛みや体調に合わせたきめ細やかな配慮を行いましょう。
その他、会社内にトレーニングルームを作ったり、理学療法士や健康運動指導士など外部の専門家を職場に招いて講話やボディケアを行うなど、外部サービスを活用することで高齢者のケアや特性に合わせた対応を講じていくことが重要です。
安全衛生教育
高齢労働者自身にも、自らの身体能力の把握が必要です。特に身体能力の低下が起こっている場合は、以前のように無理をせず、現状の体に合わせた作業負荷や作業時間にすることの重要性を教育していきましょう。また管理監督者や一緒に働く労働者に対しても、高年齢労働者に特有の特徴とその対策に関しての教育や衛生講話などで教育を行うことが望ましいです。
いままでガイドラインの概要を見ていきましたが、エイジフレンドリーのガイドラインにエイジアクション100という内容で具体的な取り組みをまとめて報告されています。
一度目を通して職場の改善に努めましょう。
エイジアクション100
「いくつになっても働きやすい」を目指して、職場と制度を整えましょう
人口減少を含めて、長く働いてもらうことを前提とした制度づくりや職場づくりを行うことが重要です。従業員そして企業共に win-win の状態になれば、人材不足や採用コストの増大といった企業側の大きなデメリットを解消すれば自社の強みになることでしょう。
長いスパンで見据えて対策をとっていくよう心がけてみてください。
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