• 健康経営
  • 2020.10.01 (最終更新日:2022.03.26)

健康経営の新たな可能性。国際標準ISO化【寄稿:新井卓二氏】

目次

健康経営の新たな動き

健康経営先進国日本の世界に果たすべき役割 前回のコラム(「【有識者が語る】健康経営の課題」2019.11.21)に書いた通り、健康経営は本年3月での顕彰制度において、上場企業の参加が1/4を超え、普及期を迎えました。健康経営に取り組んでいないと時代遅れと言われる時がきています。

産業界のムーブメントになった健康経営には、新たな動きもあります。それが、健康経営の国際標準規格ISO化です。先月、正式に経済産業省より一般社団法人社会的健康戦略研究所に委託され、取り組みが始まっています。目的は、日本で成功した健康経営の海外輸出になります。
 


すでに健康経営の海外輸出には事例があり、2019年にスリランカにおいて日本の健康経営表彰制度を模した「スリランカ健康経営アワード」が開催され、応募のあった現地企業30社から、従業員数で分けた4つのカテゴリーごとに、ゴールド(最優秀賞)企業、シルバー(優秀賞)企業を発表されました。

日本貿易振興機構(ジェトロ/JETRO)日本型健康経営の普及へ、「スリランカ健康経営アワード」を開催

そこでは、「アワードの評価基準は、日本で広く実践されている健康経営手法をベースに作成した国際規格(BS-PAS3002)を、スリランカの企業事情に合わせてアレンジしたもの。」とあり、すでに国際規格を見据えた動きが始まっており、そしていよいよ本格的に取り組みが始まりました。

具体的には、まず健康経営の1号規格(マネジメントシステム規格)ができ、その後、子規格さらに孫規格が作成されます。イメージ図は下記です。
 

次世代ヘルスケア産業協議会

(出所)経済産業省 次世代ヘルスケア産業協議会 第22回健康投資WG 説明資料より筆者作成

ちなみに、ISO化における健康経営の英語表記は、Well-Being Management System となり、経済産業省が海外向け説明のHealth and Productivity Management Systemとは違っておりますので、注意が必要です。

スケジュールは、コロナ渦の影響で遅れ気味ですが、国内委員会と国際委員会とのやり取りを経て、最短で2020年10月を目標としています。具体的には、STAGE 1.新規提案(NWIP)→STAGE 2. WG内での検討(WD)→STAGE 3. TC/SC内での検討CD→STAGE 4.ISOの全加盟国への意見照会(DIS)→STAGE 5. 最終国際規格案の正式投票(FDIS)→STAGE 6. 国際規格の制定(IS)となります。今は、STAGE 1. がちょうど始まったところです。

経済産業省ホームページ 国際標準化活動について

先ですが、2025年の大阪万博開催の際は、健康経営館なんてのも出来ているかもしれませんね。

健康経営の新たな解釈。イノベーション

新型コロナウイルス感染症が、休まることなく猛威を振るっていますが、日本では感染者数、死亡率等、海外と比べ相対的に低くなっています。

日本経済新聞社 チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス

私は、過去に国際学会で健康経営の取り組みを報告したことがあります。その後、本年4月に、国際学会より連絡があり、「日本で新型コロナウイルス感染症の罹患者また死亡者が少ないのは、日本における企業の健康経営の取り組みの可能性はないだろうか?」、また「健康経営が新型コロナウイルスの罹患率に影響があると仮定した場合、健康経営はヘルスケアにおけるイノベーションではないでしょうか?ぜひ学会でオンライン報告してください」と依頼を受けました。
4月は他論文で忙しく不参加となりましたが、またこの国際学会はイノベーション系の学会ですが、それだとしても、健康経営をヘルスケアにおけるイノベーションと考え、つまり海外からは、健康経営を「ヘルスケアイノベーション」と捉えて、コロナウイルス等他様々な効果の可能性があると認識しているということです。

さて、「ヘルスケア産業は、日本における成長産業の一つであることは間違いありません。この分野でのイノベーションを創出して新規参入を検討している企業は数多いでしょう。また、それが実現できれば企業にとって売上及び収益性向上に寄与するだけでなく、人々の健康増進に寄与するという社会的に意義も大きいです。また、今後増大する社会保障費が大きな問題となっている日本社会においてはヘルスケア産業のイノベーションは期待されています。」と言われている通り、世界に先駆け超高齢化社会に突入している日本でも大いに期待される分野となります。

「ヘルスケア・イノベーション -ヘルスケア産業における新規事業成功要因の分析―」
2020玄場・新井・小野(同友館)巻末参照

「ヘルスケア イノベーション」というと、海外では、病院経営におけるイノベーションの事例が多く見受けられます。日本においては、ほとんどヘルスケア・イノベーションという事は聞きません。ただ経済産業省が、2016年からジャパンヘルスケアビジネスコンテストを開催しており、ヘルスケアにおけるイノベーション企業と言えるでしょう。受賞者は下記となります。
 
表1 JHBC受賞者一覧、アイデア部門除く、
  社名 ジャンル
2016グランプリ MRT株式会社 ICT/遠隔診療
2016優秀賞 株式会社イデアクエスト IoT/見守り
株式会社こころみ 通信/出版
株式会社竹屋旅館 飲食/糖尿病食
株式会社ミナカラ ICT/薬剤師相談
2017グランプリ トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 IoT/排泄予知
2017優秀賞 エルピクセル株式会社 医療機器/画像診断
株式会社O:(オー) IoT/睡眠可視化
ヘルスグリッド株式会社 ICT/体力可視化
株式会社メドレー ICT/遠隔診療
株式会社リクルートライフスタイル 検査/精子可視化
2018グランプリ 株式会社 mediVR VR/リハビリ機器
2018優秀賞 株式会社 iCARE ICT/健康経営
OQTA 株式会社 IoT/コミュニケーション
株式会社 PREVENT ICT/重症化予防
株式会社 ユカシカド 検査/栄養可視化
2019グランプリ 株式会社カケハシ ICT/薬剤師支援
2019優秀賞 アンター株式会社 ICT/医師コミュニティ
株式会社ウェルモ AI/ケアマネジメント支援
株式会社T-ICU ICT/遠隔集中治療支援
株式会社NeU ※第5章(2)参照 IoT/脳機能可視化
株式会社ニューロスペース ※第5章(3)参照 IoT/睡眠可視化
株式会社リモハブ ICT/遠隔リハビリ
2020グランプリ CI Inc. ICT/病児保育ネットワーク構築
2020優秀賞 エーテンラボ株式会社 ICT/重症化予防
株式会社リハートテック ICT/重症化予防
株式会社ジョリーグッド VR/ソーシャルスキル支援
アトピヨ ICT/アトピー可視化
(資料)経済産業省資料より小野作成

最後に、イノベーションは、規制から生まれるとも言われています。環境経営という言葉を聞いたことがあるでしょうか?環境省によると、環境に配慮した経営と定義しており、企業側は社会的責任と位置づけ取り組んでいます。また環境経営に取り組んだ結果、新たなエコビジネスや環境技術の開発も行われています。これは新しい環境の規制や基準に適応することによってイノベーションを起きた事例です。
健康経営も、取り組んでいない企業からみると規制や基準に見えるかもしれません。しかし、健康経営に取り組みことによって、生産性の向上やイメージアップ等多くの効果が、また健康経営に資するサービスや製品を新たに市場に出す例もうまれてきています。健康経営に取り組んでイノベーションをおこしていきましょう。

※「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の商標登録です。

著者「ヘルスケア・イノベーション」

ヘルスケア・イノベーション
 

著書詳細

新井 卓二

著者紹介

玄場公規 (げんば きみのり)

法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科・教授。大阪大学大学院工学系研究科・招聘教授。東京大学学術博士。三和総合研究所研究員、東京大学大学院工学系研究科助手、東京大学工学系研究科アクセンチェア寄附講座助教授、スタンフォード大学客員研究員、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科助教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科副研究科長・教授、滋賀医科大学非常勤講師を経て、現職。著書『理系のための企業戦略論』(単著、日経BP社)、『製品アーキテクチャーの進化論』(共著、白桃書房)、『イノベーショ ンと研究開発の戦略』(単著、芙蓉書房)、『後継者・右腕経営者のための事業承継7つのステップ』(同友館)ほか。

新井卓二(あらい たくじ)

山野美容芸術短期大学特任教授。経済産業省健康投資 WG 専門委員。経済産業省地域ヘルスケアビジネス創出アクセラレータ。経営学修士(MBA)、大阪大学学術博士。証券会社勤務を経て、法人向け出張リラクゼーション株式会社 VOYAGEを起業し売却。明治大学ビジネススクールTA、昭和女子大学研究員、山野美容芸術短期大学講師経て現職。「健康経営 新井研究室」を主宰し、経済産業省等官公庁ほか、健康経営で先進的な企業を招き勉強会を開催。著書『経営戦略としての「健康経営」』(共著、合同フォレスト)ほか「『健康経営』の投資対 効果の分析」等健康経営の論文多数。

小野恭義(おの やすよし)

公益財団法人大阪産業局 プランナー
株式会社SRS技研代表取締役
近畿大学紹介学部卒業後関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)、その間出版・広告業界からネット通販事業の立ち上げを経て、近畿経済産業局が実施する関西の中小企業の航空機産業参入支援事業に参画。大阪産業局にて経済産業省「地域ヘルスケア構築推進事業(H24、25、27)を責任者として実施。平成27年より大阪健康寿命延伸産業創出プラットフォーム(OKJP)事務局を設立当初より務め、ヘルスケアビジネスコンテストの健康産業有望プラン発掘コンテストを平成29年より毎年実施。主に関西のヘルスケア関連企業・自治体・大学等研究機関のネットワークを有し、直近では前記に加えて堺市のヘルスケア企業コンソーシアム、高石市の運営する市民企業行政共創型のリビング・ラボの運営にも携わる。

概要

単行本: 180ページ
出版社: 同友館 (2019/10/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 449605499X
ISBN-13: 978-4496054990
発売日: 2019/10/22

Contents:
第1章 ヘルスケアのイノベーション
第2章 新規事業創出戦略
第3章 ヘルスケアビジネスの潮流
第4章 ヘルスケアビジネスの要諦
第5章 ヘルスケアビジネスの具体的事例
株式会社Moff/株式会社NeU /株式会社ニューロスペース/オムロンヘルスケア株式会社/一般社団法人社会的健康戦略研究所

Amazon書籍情報:https://www.amazon.co.jp/dp/449605499X

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