- 健康経営
- 2019.09.29 (最終更新日:2022.03.26)
健康経営とは? 企業にとってのメリットと取り組む方法
健康経営とは。わかりやすく解説
「健康経営」とは、従業員の健康管理や増進を企業全体で取り組み、それらにかかる支出は企業の活力や生産力の向上、イメージアップなどに向けた投資であるという考え方に基づいて、多くの企業で実践されている経営手法です。
従来、「従業員の健康は個人的な問題である」という考え方をする企業が多く、健康管理や健康の増進に関して費用をかけることは多くありませんでした。
ですが、これからは労働人口がどんどん少なくなっていくため、企業は、人的生産性を向上させていかなければならないという課題に直面しています。生産性をアップさせるには、従業員の健康管理・増進が非常に重要となるため、「健康経営」を取り入れる企業は年々増加しているのです。
「健康経営」を取り入れた企業が実施している具体的な取り組みとしては、健康に関するセミナーやイベントの開催、禁煙のサポート、定期的なストレスチェック、カウンセリングルームの設置などがあります。こういった取り組みを企業全体で行って従業員の健康に配慮することで、従業員の活力を上げ、業績や生産性、企業価値も上がり、全体的な企業の成長を目指していくことができます。
「健康経営」を行う企業は、求職者や従業員の家族、投資家などからの印象も良く、リスクマネジメントの観点から見ても優れた戦略であるとして注目が高まっています。
経済産業省のホームページでは以下のように説明されています。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
経済産業省では、健康経営に係る各種顕彰制度として、平成26年度から「健康経営銘柄」の選定を行っており、平成28年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。
優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価を受けることができる環境を整備しています。なお、健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。
引用元:経済産業省「健康経営の推進」
アメリカから始まった健康経営
「健康経営」は本来、アメリカで始まった経営手法でした。
日本とは異なり、アメリカでは公的医療保険がないため、従業員の怪我や病気による医療費の負担が企業経営の根幹に関わる問題になっていたことがきっかけです。経営学と心理学の専門家であるロバート・H・ローゼンの著書「The Healthy Company」に基づき、従業員の健康管理を経営課題として考え、メンタル面、フィジカル面両方の健康を維持・増進することにより企業の成長を目指す、という取り組みが1990年代頃から広がっていきました。
日本でも健康経営が注目されてきた背景
日本で「健康経営」が注目されるようになった背景には、以下のような要因があります。
- ブラック企業の問題
- 労働環境の悪化による、自殺などが起こった場合のリスク
- 健康保険組合の赤字による企業負担の増加
ブラック企業の問題は、長期化するデフレのため企業が人的コストを削減することによって長時間残業やワンオペが大きな問題となりました。
労働環境が悪化することによってさらに従業員は少なくなり、労働災害のリスクも高くなります。そのような事態を避けるためにも、従業員の健康に注目する企業が増加していきました。
また、労働環境の悪化による、自殺などが起こった場合のリスクとは、ブラック企業の問題などを苦にした自殺やうつ病などが起こり、裁判などに発展するという事態が顕在化し始め、ニュースなどでも大きく取り上げられるようになりました。そして、健康保険組合の赤字による企業負担の増加という問題もあり、医療費の削減を目指すためにも、企業側が従業員の健康に配慮するという取り組みが注目を集めるようになったのです。
健康経営のメリット・デメリットまとめ
では、「健康経営」には具体的にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。それぞれ箇条書きにして、わかりやすく解説していきます。
健康経営のメリット
「健康経営」に取り組むと、以下のようなメリットがあります。
・生産性や活力の向上、業績アップ
身体、精神ともに健やかな状態で仕事をすると活力が向上し、しっかり集中して取り組むことができます。体調が悪いと集中力は低下し、作業のスピードも遅くなってしまいます。また、メンタル面に不調がある場合はパフォーマンスが大きく低下し、ミスも発生しやすくなります。心身ともに良いコンディションで仕事に臨むことができれば、生産性も上がり業績もアップするでしょう。
・離職率の低下
従業員の健康管理に取り組み、一人ひとりに配慮がされている企業では従業員の満足度や安心感が向上し、社員定着化が期待できるでしょう。労働環境が重要視される近年では、求職者からの人気も高まることが予想されるため、人材不足問題の解消につながります。
・企業イメージの向上
「健康経営」を行う会社は、他企業や求職者からのイメージが良く、投資家からも好印象を得ることができます。「従業員の健康に配慮のある会社」という風に見られ、社会的な価値の向上が期待できます。
・リスクマネジメント
従業員が怪我や病気で入院したり、死亡したりした場合、代わりの人材が必要となり、それには時間やコストがかかります。また、入院・通院費用の企業負担も発生することになります。
健康に問題を抱えたまま勤務を続けた場合は、仕事で十分な力を発揮することができず、さらには怪我や事故につながることも考えられるでしょう。仕事中の怪我や事故は、労災の扱いとなり、場合によっては高額な費用がかかります。従業員の健康管理を徹底しておくことで、このようなリスクを回避することができるのです。
健康経営のデメリット
「健康経営」を実践することのデメリットは以下となります。詳しく見ていきましょう。
・新たな費用の発生
今まで、定期診断以外の取り組みをしていなかった場合は、新たな費用が発生します。また、健康経営の実践と企業の生産性などの因果関係を証明することが容易ではないため、費用対効果を感じることが難しいというデメリットもあります。
・プライバシーに関するセンシティブ情報の提供による不満
健康管理・増進のためには、従業員の健康状態を把握する必要があり、従業員は企業にプライバシーに関わる情報を提供しなければなりません。個人情報の提供に関して、抵抗があり不満を持つ従業員がいる可能性も考えられるでしょう。
・通常業務とは異なる形の時間消費による不満
「健康経営」を実践するには、企業側だけでなく従業員も一緒に取り組まなければいけません。通常業務以外のことで、貴重な時間を消費しなければいけないということに不満が出てくる可能性もあります。
政府が推奨する健康経営への取り組み
政府は「健康経営」への取り組みをさらに広げていくために、経済産業省からは「健康経営ハンドブック」、厚生労働省からは「コラボヘルスガイドライン」というガイドラインが公表されています。これから取り組もうと考えている場合は、目を通しておくことがおすすめします。
経済産業省「健康経営ハンドブック」
経済産業省の「健康経営ハンドブック」には、取り組み方法や、実際に行っている企業の取り組み事例などがまとめられています。企業インタビューや、取り組み方を漫画でわかりやすく解説したものなども掲載されています。
詳しくはこちら
厚生労働省「コラボヘルスガイドライン」
「コラボヘルスガイドライン」は、厚生労働省が作成したもので、事業主・健康保険組合がコラボヘルスに取り組むことの意義や実際の取り組み実例などがまとめられています。「健康経営」の解説から、推進する理由、取り組み方法などがグラフや図を用いてしっかりと解説されたガイドラインです。
詳しくはこちら
企業が健康経営に取り組むための流れ
「健康経営」への取り組みは、以下のような流れで行います。
- 経営陣が健康経営を導入する意義を理解する
- 「健康経営」に取り組むことを社内外に発信
- 会社全体で「健康経営」に取り組んでいく体制を整える
- 従業員の健康状態をチェックして把握、分析
- 健康状態の分析結果から具体的な取り組みを計画、実施
- 定期的に取り組みの効果検証を行う
「健康経営」を成功させるには、第一に理解を深めることが重要です。
そして、プレスリリースなどで社内外にアピールをすることも大切で、企業全体で行っていくことを認識してもらいます。従業員の健康状態をチェックした後、すぐに施策せずに一度把握した上で分析します。そうすることで、より効果的な取り組み計画を立てることができるでしょう。実際に健康への取り組みを始めた後は、その効果を検証して施策の改善や見直しをします。
最初は小さなことから挑戦し、施策を積み重ねていくことで理想的な「健康経営」を実現することができるでしょう。
まとめ
現在も人手不足は大きな問題となっていますが、将来は、少子高齢化に伴ってさらに減少していくことが予想されます。そのため、今いる従業員一人ひとりの健康に配慮し、大切にすることが重要な課題となっています。
「健康経営」を取り入れるのに多少の費用がかかっても、コストではなく投資と考えて取り組めば、後から大きなリターンとなって返ってくることが予想されます。中長期的な観点から見ると、非常に良い判断であると言えるでしょう。
今後の企業の成長のためにも、「健康経営」に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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