• 健康経営
  • 2019.11.21 (最終更新日:2022.03.26)

【有識者が語る】健康経営の課題

目次

産業界のムーブメントになりつつある健康経営。その現状は

健康経営 本年2019年2月21日に日本健康会議と経済産業省共催の健康経営アワードでは、健康経営優良法人ホワイト500(大規模法人部門)に取り組む上場企業が、全上場企業の1/4となり認定数も過去最多の821法人、また中小規模法人でも過去最多となる2500法人を超え、「健康経営」は普及期を迎えました。今後も更に「健康経営」に取り組む企業が増えることが見込まれています。

産業界のムーブメントになりつつある健康経営ですが、学術的な研究がすすんでいるかというと、残念ながら進んでいるとは言えないのが現状です。例えば、健康経営の論文(日本学術会議協力学術研究団体の学会誌に掲載)は少なく、査読付きにいたってはほとんどありません。また日本の研究者のデータベースresearchmap(https://researchmap.jp/)において、研究キーワードに健康経営を掲げている全研究者25.6万人の内7名(2019年11月18日現在)しかいません。まだキーワード登録をしていない研究者もいますが、健康経営を研究している研究者は日本では7名しかいないと、見ることが出来ます。

健康経営にまつわる論文がまだ不足している

健康経営論文 ここに健康経営が持続的に日本の企業に根付くために一つ目の課題があると考えています。論文が少ないということは、上記の通り産業界のムーブメントになりつつある健康経営は、学術的な研究、つまりエビデンスがなく“ただのブーム”になっているということです。エビデンスがなければ、今後さらに企業が増えていくことは難しいでしょう。また不景気になった際に、ブームですので取り組むのを止めてしまう企業も出てくるでしょう。これでは、健康経営が今後も持続的に続いていく確信を持つことができません。早くエビデンスを持つことによって、企業の経営者は取り組み易く、また健康経営を推進している官庁の経済産業省にとっても国家予算を使用する際の理由になることでしょう。

【代表的な先行研究】

  1. ロバート・ケーラム, 千葉香代子:儲かる「健康経営」最前線, ニューズウィーク日本版,  pp.48-53,2011-03-02
  2. Loeppke R, Taitel M, Haufle V, et al:Health and productivity as a business strategy, A multiemployer study, J Occup Environ Med 51, pp.411-428, 2009
  3. Kizzy M, Lisa A:“Organizational Wellness Programs: A Meta-Analysis”, Journal of Occupational Health Psychology, Vol. 13, No. 1, pp.58–68, 2008
  4. Katherine B, David C, Zirui S:Workplace Wellness Programs Can Generate Savings, Health Affairs Worksite Wellness Study, Health Affairs, 2010
  5. Fabius R, Thayer RD, Konichi DL, et al: The link between workforce health and safety and the health of the bottom line tracking market performance of companies that nuture a “culture of health”, J Occup Environ Med 55(9), pp.993-1000, 

学術学会と研究者の不足。今後、持続させていくには

学術学会 もう一つの課題が、学術学会と研究者の不足です。研究者がいなければ学術的な研究はできません。また発表する場である健康経営をメインとした学術学会は、残念ながらありません。発表する場がなければ研究者も育たないでしょう。鶏が先か、卵が先かの因果のジレンマになりますが、健康経営の学術的研究が進めば、教えることができる教員も現れ、大学や大学院での科目が出来ることでしょう。また研究者が育てば健康経営の研究は進むことでしょう。上記2つどちらの課題も今後の持続的に健康経営が社会に浸透していくことに必要なことだと考えています。ぜひ、エビデンスのある論文と多くの研究者が育つことを期待しています。

私たちの取組み。健康経営の研究

そこで私達は、上記課題を解決するために、日本における健康経営の研究を進めています。
一つ目の論文が下記となります。

①「日本における『健康経営』の期待される効果と実態」 新井卓二、上西啓介、玄場公規

大阪大学から、2017年11月~12月に、業種を加味した上場企業1000社に、調査票を送付し、「健康経営優良法人ホワイト500(大規模法人部門)」と「その他上場法人」に分類し、「経済産業省」が推進のモデルに使用しているJ&Jの効果を、健康経営または広報部等のご担当者の伺い、5段階評価で実感値を分析しました。
本研究は、そもそも健康経営は普及しているけど取り組んでいる企業は、経営として、効果を実感しているか?という問いに対して、基本的な答えとなる論文です。
特徴は、従来の「健康経営」の評価には前後比較分析しかなかったですが,今回初めて対象群を設定した分析において有意差が示された点.また,「健康経営」を取り組む法人には,投資効果が期待されることが示された点です。
具体的にみると、有意差有は、「イメージアップ」、「生産性の向上」、「リクルート効果」と「医療コストの削減」の長期的な医療コストの削減可能性となり、有意差はなしは「モチベーションの向上」、「医療コストの削減」の現在の医療コストの削減となりました。
つまり「健康経営」への投資を行っても、「医療費の削減」や「モチベーションアップ」を短期的に実感するのは困難であるが、「イメージアップ」や「生産性の向上」効果も考慮すると、短期的にも投資効果があると考えられました。

続いて、先行研究であるJ&Jのモデルで3倍以上の資額リターンが期待されているため、健康投資リターンを測定した論文が下記です。

②「健康経営」の投資対効果の分析 新井卓二、上西啓介、玄場公規

2018年2月~6月にかけ、ヒアリングを健康経営銘柄2017の2社の広報IR担当者におこないました。A企業は、健康経営銘柄の初年度から3年連続で選定されていて他表彰制度でも多数表彰や認定されている働き方等の取り組みで有名でした。B企業は、2017年に初選定され直近で積極的に取り組み始めたところでした.また健康経営銘柄のため業種は違い,また取り組み年限にも違いを持たせ、また効果を証明しやすいであろう外的効果の「イメージアップ」と「リクルート効果」と、「健康投資額」を聞いて分析しました。
結果は、少なくとも外的効果の「イメージアップ」において健康投資効果があり,他WEB露出や講演も含めれば,少なくとも健康投資額の3倍から10倍以上の効果がある可能性が示されました。

健康経営は数十倍のリターンも期待できる経営戦略になる

経営戦略 日本での健康経営アワードが始まった2015年から既に4年が経過し、経営学的効果も測定できるようになってきました。一方でこれから効果が表れてくる経営指標ももちろんあります。また今回は、外的効果のみを対象に投資リターンを推計しましたが、内的効果「生産性の向上」や「医療コストの削減」等も加われば、健康経営は数十倍のリターンも期待できる経営戦略になるのではないでしょうか?
その他にも健康経営の効果や波及図、実践のアプローチ手法等も分かってきました。そこで、先月末に、「従業員への健康投資は、活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、業績も株価も向上する」という考えのもと、経済産業省を中心に国を上げて推進している「健康経営」。その全容と手法をいち早く導入した企業の取組事例を盛り込みながら紹介した書籍「経営戦略としての健康経営」刊行しました。ぜひ、手に取って頂き日本で初めての調査結果やエビデンスをご確認下さい。健康経営に取り組んでみようと思っていただけるはずです。
※「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の商標登録です。
 

著者『健康戦略としての「健康経営」』

健康戦略としての「健康経営」

著書詳細

著者紹介

編著者:新井 卓二
山野美容芸術短期大学特任/株式会社VOYAGE代表取締役/一般社団法人日本ヘルスケア協会 健康経営推進部会 副部会長
明治大学商学部卒業後、経営学修士を取得。証券会社勤務を経て、株式会社VOYAGEを起業。「健康経営 新井研究室」を主催し、経営産業省官公庁ほか、健康経営で先進的な起業を招き、勉強会等を開催。また健康経営企業への学生訪問プロジェクトも開催し、普及に努める。「『健康経営』の投資対効果の分析」等健康経営の論文多数。

編著者:玄場 公規
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授/大阪大学 工学研究科 招聘教授/立命館大学 グローバルMOT研究センター 客員教授
東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、三和総合研究所研究員を経て、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(博士〔学術〕)。東京大学大学院工学系研究科アクセンチェア寄附講座助教授、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科助教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科教授、スタンフォード大学客員研究員などを経て現職。『イノベーション戦略入門』、『後継者・右腕経営者のための事業承継7 つのステップ』など著書多数。
  • 著者:株式会社富士通ゼネラル 健康経営推進室 室長 佐藤光弘
  • 著者:ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室 川村 由起子 
  • 著者:SCSK株式会社 ライフサポート推進部 副部長 杉岡 孝祐
  • 著者:株式会社フジクラ CHO補佐、株式会社フジクラ健康社会研究所 代表取締役 浅野 健一郎

概要

単行本: 224ページ
出版社: 合同フォレスト (2019/10/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4772661468
ISBN-13: 978-4772661461
発売日: 2019/10/30

Contents:
第1章 経営戦略の流れからみる健康経営
第2章 健康経営の歴史
第3章 戦略としての「健康経営」
第4章 投資効果を上げる健康経営の取り組み
第5章 最新の「健康経営」取り組み事例
(株)富士通ゼネラル/ヤフー(株)/SCSK(株)/(株)フジクラ

Amazon書籍情報:https://www.amazon.co.jp/dp/4772661468
 

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