• 健康経営アドバイザー
  • 2022.08.26

リスキリングとは?意味や事例・企業研修のポイントを解説

デジタルスキル
目次
「リスキリング(Reskilling)」とは、企業が主体的に行う従業員の再教育です。多くの企業にとってリスキリングは、「デジタル時代に人を生かす」人事再構築でしょう。

IT社会の加速によって、過熱するデジタル人材争奪戦が問題となっています。企業は、人材の即戦力獲得という発想をやめ、デジタル人材を自社育成することで、新たな価値を生み出す経営戦略が必要です。今回はリスキリングの意味や必要性を解説します。

リスキリングとは?今取り組むべきデジタル時代の人材戦略

リスキング

リスキリング(Reskilling)には「スキル向上を繰り返す」、日本語では「学び直し」という意味があります。一般的には、デジタル時代における新しいスキルや知識向上を示しています。リスキリングは、会社が従業員に学ぶ機会を与えることで、企業の成長に寄与する取り組みです。

海外ではデジタル分野に人材を移行させ、雇用を守るためにリスキリングが進んでいます。 近年日本政府もリスキリングの重要性を呼び掛けており、経済産業省は「デジタル時代の人材政策に関する検討会」において、次のように定義しています。

【デジタル時代の人材政策に関する検討会】

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること

リスキリングとリカレント教育の違い

学び直し

リスキリングと同様に、学び直しという言葉の意味としてリカレント教育と生涯学習があります。スキルを習得するという目的は同じでも、それぞれ対象やプロセスが異なります。

リカレント教育とは

リスキリングが企業主体であるのに対し、リカレント教育の主体は従業員本人です。リカレント教育は休職など会社から離れ、大学などの教育機関で新たな知識を習得することを指します。
社会人が新たなスキルを身につけるという点はリスキリングと共通しています。リスキリングとの違いは、従業員自らの意思で学び直すことです。

生涯学習とは

生涯学習とは、人生におけるあらゆる学びのことです。リスキリングやリカレント教育とは、学びの範囲に違いがあります。文部科学省によると生涯学習は次のように紹介しています。
参考:文部科学白書

  • 学校教育
  • 家庭教育
  • 社会教育
  • 文化活動
  • スポーツ活動
  • レクリエーション活動
  • ボランティア活動
  • 企業内教育
  • 趣味など

その他のスキルアップに関する用語

アップスキリング(UpSkilling)

アップスキリングとは、現職でキャリアアップするためにスキルを高めていくことです。

OJT(On the Job Training)

OJTは、職場内訓練として業務を通じて学びを得ることを指します。

なぜ企業にリスキリングが必要なのか?

デジタルトランスフォーメーション

企業にリスキリングが必要な理由は、大きく2つあります。

  1. DX実現のために必要な専門スキルを持った人材の不足
  2. 技術的失業による余剰人材への対応
まずは「そもそもDXとはなにか」を理解する必要があります。

DXは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称です。
  • 「Digital(デジタル)」は連続的な量を段階的に区切って数値化(コンピューターがわかる形に表す)
  • 「 Transformation(トランスフォーメーション)は段階的変化(製品やサービス・ビジネスモデルを変革すること)
企業にとってのDX推進とは、「デジタル技術を活用し、生産性向上や新規事業創出に取り組み、競争上の優位性を確立すること」です。DX推進によって、社会の産業構造が大きく変化することが予想されます。企業がDXを推進することは、生産性向上や事業効率に寄与し、市場競争力を高めることにつながるでしょう。

さらにデータ活用によって、多様化する消費者ニーズへの対応に役立ちます。そのため企業はDXに対応できる人材の育成としてリスキリングが必要不可欠です。

1.DX実現のために必要な専門スキルを持った人材不足

DX推進が進む中で、デジタルの専門スキルを持った人材が不足しているという課題があります。デジタル技術を活用するために、専門的なスキルが必要となり、新たなデジタルスキルを身に着ける必要性があります。

「リスキリングは、一部のデジタル人材の問題では?」と考える方もいるでしょう。しかし、デジタル技術を直接扱う業務だけではありません。DX時代では既存のビジネス構造変革を求められるため、あらゆる職種にリスキリングが必要となるでしょう。

2.技術的失業による余剰人材への対応

DX推進によって業務の自動化や技術革新、不要となる業務が増え人材の余剰が懸念されています。企業は、デジタル人材の不足とデジタルに対応できない余剰人材の板挟みになる可能性があります。DX推進の大きな課題は、人材不足と人材余剰が生じることでしょう。

リスキリングのメリット

企業がリスキリングに積極的に取り組むことによって、次のようなメリットがあります。
  • 新規事業の立ち上げや既存事業の拡大につながる
  • 生産性向上による売上アップが期待できる
  • アイデアが生まれやすくなる
  • 企業文化の維持
  • 優秀な人材の確保
  • DX人材の採用コストの削減
リスキリングは、これからさらに加速するDX時代の人材戦力といえるでしょう。ビジネスモデルが変わるなら同様に人材戦略も変えるべきです。「デジタル人材を採用すれば済む問題では」と思う方もいるでしょう。

しかし、デジタル人材は日本全体で不足している現状です。仮に採用したとしても他に好条件があれば転職してしまう可能性もあります。さらにこれまで培ったきた企業文化や風土が保てなくなる場合も考えられるでしょう。

リスキリングによって、在籍する従業員の能力やスキルを再開発することが望ましいです。さらに、 リスキリングは、シニア層や女性の仕事復帰を後押しする手段の一つです。リスキリングによって教育を受けることにより、デジタル人材不足解消と同時に、シニアや女性の雇用拡大が期待できます。

リスキリングは、企業の成長はもちろん、日本全体の経済成長にも寄与する重要な取り組みです。

世界が急ぐリスキリング【世界と日本の導入企業事例】

世界と日本

では、日本企業はDXに備えることができているでしょうか。
日本と世界の取り組みについて知っておきましょう。

近年、リスキリングは日本でも注目されつつあります。しかし海外の動きに比べ遅れを取っていることも事実です。 経済産業省の発表によるGoogle検索においての結果は次の通りです。

英語の「Reskilling]の検索
2020年5月時点➡812,000件
2021年2月時点➡3,870,000件
日本語の「リスキリングの」の検索
2020年5月時点➡1,470件
2021年2月時点➡777,000件

上記の通り検索件数の違いが明らかです。日本でも徐々に広まりつつありますが、認知度は4割程度です。しかし、少しずつですが日本でも取り組む企業が増加し、取り組み事例も増えています。海外の事例と合わせて参考にしてください。
海外のリスキリングの事例

アメリカの通信業界大手のAT&T

  • いち早くリスキリングを開始
  • 従業員10万人にリスキリングを実施
  • 参加従業員の昇給率アップ
  • 退職率ダウンに成功

米アマゾン

  • 2025年までに従業員10万人をリスキリング実施の発表
  • 日技術系人材の技術職への移行を実施

マイクロソフト

  • 新型コロナウイルス感染症による失業者2,500万人に無償でリスキリングを実施

日本のリスキリングの事例

住友生命保険相互会社

  • 日本でいち早くリスキリングを実施
  • Vitality DX塾という価値創造型人材プログラムを実施

株式会社日立アカデミー

  • 基礎教育プログラム「デジタルリテラシーエクササイズ」の提供
  • 16万人が受講し学びの習慣化を促進

富士通株式会社

  • グループ社員全員にスキル習得を目指した講座を開発・提供
  • DX促進に5,000~6,000億円の投資を発表

リスキリングを導入する3つのポイント

スキルを学ぶ

「DX推進にあたりリスキリングをどのように進めたらよいか分からない」という企業も多いでしょう。

DX推進と叫ばれるようになって、日本では「デジタル」の部分だけが注目されがちです。しかし重要なのは、「トランスフォーメーション(変革)」の部分です。自社のビジネスモデルを変革していくために重要な要素は2つあります。

  1. IT技術やテクノロジーの知識を習得すること
  2. 自社事業の現状や課題について深く理解すること
これらの2つを踏まえて人材育成していく必要があります。そのために、リスキリングを経営戦略として捉えることが重要です。業務をデジタル化するだけでなく、経営課題解決としてリスキリングに取り組みことが効果的でしょう。
経済産業省のDX推進ガイドラインでは、以下の順序を推奨しています。
経営産業省:DXを推進するためのガイドライン

  1. 経営戦略やビジョンの提示
  2. DX推進に向けた体制の整備
  3. デジタル技術の導入

1.経営戦略やビジョンの提示

自社の課題解決となるデジタルスキルについて考察することがポイントです。さらにどのような新規事業や価値創出が起こるかという事業変革の方向性を決めます。リスキリングに取り組む目的を明確にすることが大切です。リスキリングによって社員に必要なスキルアップをするだけでなく、実践で成果を出せるようになるよう環境を整えることが重要です。

2.DX推進に向けた体制の整備

特定のスキルが不足している従業員を選定し実施すると、リスキリングが成功しやすくなるでしょう。そしてスキル習得のために、継続的にリスキリングを実施することです。自社コンテンツや外部サービスなどを活用し、リスキリングを推進することをおすすめします。

3.デジタル技術の導入

ビジネスモデルの変革が、経営方針転換やグローバル展開への対応を可能とするものとなっているのか分析・評価する必要があります。

学びを放棄している社会人

企業がリスキリングに取り組む際の課題は「自ら学び、変化する人材を企業人事はどう育てるのか」ではないでしょうか。

日本の多くのビジネスパーソンは、学びを放棄していると言っても過言ではありません。日本における社会人の読書時間の平均時間は、わずか「6分」という調査結果もあります。企業が学びの場を提供しても、従業員が学びを放棄していては、企業の躍進は望めません。

企業は、従業員のキャリア形成における指針と、プロセスを示すことが必要です。従業員自らが将来像を描く方向に向かわせるようなサポートが大切でしょう。そのためにスキルの可視化し、学習管理システムを導入する必要があります。継続して学習できるような環境を用意するなど、社員と一緒に伴走することも大切でしょう。

リスキリング導入のデメリット

リスキリングを導入する際の注意点は次の2つです。

  1. 時間と手間・コストがかかる
  2. スキルアップによる転職のリスク

1.時間と手間・コストがかかる

リスキリングは継続的に取り組む必要があり、時間と手間・コストがかかります。学習するスキルや社員の選定などに時間を要します。また実施するためには、学習費用や資格取得補助などの費用が必要です。

リスキリングを導入する際は、あらかじめ人的・金銭的予算を確保したうえで、実施することで効果的なリスキリングとなるでしょう。また活用できる公的制度もチェックしておきましょう。

日本の企業の大きな強みは、雇用安定と長期雇用です。「人材への投資は長期的視点だからこそ可能になる」ということを再認識すべきでしょう。時間や手間をかけれるからこそ企業が従業員を育てることが実現します。

2.スキルアップによる転職のリスク

リスキリングによってスキルアップした従業員は、待遇や環境の良い職場への転職を考える可能性があります。「優秀な人材が離職してしまうかも」と不安に感じるでしょう。しかし前述した通り、DX推進によって働き方改革や健康経営などの取り組みにつながります。(※健康経営とは、従業員の健康管理を企業の経営課題として取り組む経営戦略です)

業務プロセスや待遇・評価の見直しなど、自社で働くことの付加価値を与えることも重要です。リスキリングによって、他社でも通用する人材が、長期的に働くことを自ら選択する企業へ成長するきっかけとなるでしょう。

リスキリングに使える予算がない場合は、公的支援を活用

補助金 中小企業の中には、「リスキリングの必要性は理解しているが、予算の都合で難しい」という企業もあるでしょう。しかし、DX推進によって、業務効率化によるコスト削減や生産性向上が実現できます。中長期的視点で考えるとできれば早くリスキングを進めておきたいところです。

そこで活用したいのが、経済産業省のポータルサイト「マナビDX」です。経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、デジタル人材育成するため開設しました。
ポータルサイトでは、DXリテラシーやデジタルスキルを学ぶことができるコンテンツを紹介しています。
参考:経済産業省ポータルサイト「マナビDX」

企業の社内研修におすすめの実践的な学習コンテンツが掲載されていますので、リスキリングの第一歩におすすめです。マナビDXの講座を企業研修に活用する場合、受講料や受講期間中の賃金に対する助成金が受けられます。

その他に経済産業省では、DX推進に活用できる補助金制度として次の制度を提示しています。その他にも、代用可能な補助金制度や自治体ごとにDX推進に関連する補助金制度がありますので、検討をおすすめします。

  • IT導入補助金2022
  • ものづくり補助金事業
  • 事業再構築補助金
  • 人材開発支援助成金

リスキリングはデジタル人材の自社育成

今回はリスキリングの必要性について解説しました。リスキリングは、今後のDX成長戦略としてあらゆる分野の企業に重要な取り組みとなるでしょう。企業が主体的に取り組み、社員のデジタル人材への成長を手助けすることは、企業の成長へとつながります。

「リスキリングは自社には関係のない取り組み」と考えていた方も、今回の記事をきっかけにリスキリングを検討してみてはいかがでしょうか。

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