- 健康経営アドバイザー
- 2022.09.12
ウェルビーイングの意味や注目される理由とは?成果を上げる組織を実現する最先端の経営戦略を解説
- 目次
新型コロナウイルス感染症によって、新しい働き方や価値観が生まれています。そんな社会の変化の中で、働き方改革や健康経営と同様に注目を集めている考え方が「ウェルビーイング(Well-being)」です。
政府も2021年からウェルビーイングに注目しており、企業がウェルビーイング経営に取り組むことを推奨しています。
「そもそもウェルビーイングとはなにか」
「なぜ今ウェルビーイングが必要なのか」
「ウェルビーイングをビジネスにどのように取り入れるべきか」
といった疑問をお持ちの方のために、企業事例や取り組みにおけるポイントを解説します。
ウェルビーイングとは、人生全体に対する満足度
まずはビジネスの場で注目されている「ウェルビーイングとは何か」を知ることから始めましょう。
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(Well-being)を直訳すると「よくあること」です。ウェルビーイングとは「体も心も、社会的にもよい状態であること」を意味します。簡単に言うと、体も心も健康であり、社会的に満たされている状態です。
WHO(世界保健機構)は次のように定義しています。
「健康とは、単に疫病がない状態ではなく、肉体的・精神的・社会的に完全にウェルビーイング(Well-being)の状態である」「ニュアンスは分かるけど、具体的にどういう状態か分からない」と感じる方も多いでしょう。ウェルビーイングは多くの人にとってなじみのない言葉だと思います。
ウェルビーイングを理解するキーワードは、「満足」と「幸福」です。
- 人生全体に対する「満足」
- 日々の体験に基づく「幸福」
ウェルビーイングを構成する要因のひとつに、ポジティブな人間関係があります。日常生活の中で、「周囲の人とつながりを持てているか」ということは、その人の「幸福」や「満足」にかかわる重要な要素でしょう。
ウェルビーイング【5つの要素】
ウェルビーイングを理解する上で知っておきたいのが、「PERMA(パーマ)の法則」です。セリグマン博士が提唱した法則で、マーケティング心理学としても広く知られています。
P=前向きな明るい感情を示すポジティブ感情(Positive emotion)
E=時間を忘れるほど熱中する状態(Engagement)
R=幸福を支える良好な人間関係(Relationship)
M=意義あることに打ち込める状態(Meaning)
A=目標を立て挑戦し、達成感すること(Achievment)
PERMAの法則でウェルビーイングは、瞬間的な幸せではなく、持続する健やかな状態であると示しています。ウェルビーイングを理解するポイントは、持続可能な幸福という点です。
注目すべきは、企業が働きかけることにより、ウェルビーイングの5つの要素を満たすことが可能となることです。この5つの要素を意識してウェルビーイングを推奨することが、重要なポイントでしょう。
ウェルビーイングが注目されている理由
ウェルビーイングは、従来のやり方では停滞していた問題を解決し、新たな価値を生み出す可能性があります。
2021年6月、日本の成長戦略実行計画において「国民がウェルビーイングを実感できる社会の実現」を示しました。日本を代表する大企業や政府がウェルビーイングを目標に掲げたことにより、さらに注目されています。一方で、欧米では半世紀以上前からウェルビーイングという概念が知られています。
ウェルビーイング経営の考え方は、従業員の満足度・幸福度へ働きかけることによって、社員の意欲やエンゲージメントを高める経営手法です。それによって組織の業績を高めていこうとする考え方です。
ウェルビーイングが注目される理由は次の4つです。
- 価値観の変化
- 働き方改革
- 健康経営
- SDGs
1.価値観の変化
新型コロナウイルス感染症の拡大により、価値観は大きく変化しました。生活・働き方・自分の幸せについて改めて考えさせられた人も多いでしょう。企業は、従業員の多様性を尊重し、さまざまな能力を持つ人が能力を発揮できるように環境を整備する重要性が高まっています。さらに労働力不足が懸念される中、事実上、終身雇用制が崩壊しています。労働者は、自身にとって働きやすい、働きがいのある環境を求める人が増加傾向です。そのため企業は、ウェルビーイングを魅力としアピールする必要があるでしょう。
2.働き方改革
2019年4月からスタートした働き方改革では、従業員が働きやすい環境を整備する必要があります。具体的には次のような環境整備をする必要があります。- 残業時間の上限規制
- 産業医の機能強化
- 同一労働・同一賃金の適用
3.健康経営
健康経営では、社員の健康管理を経営課題と捉え、戦略的に取り組むことが求められます。社員のメンタルヘルスやモチベーションを含めて、理想の職場環境づくりを行うことが重要であると考える経営戦略です。健康経営を推進することは、間接的にウェルビーイングを追求することにつながるでしょう。
4.SDGs
SDGs(持続可能な開発目標)でも、ウェルビーイングが注目されています。SDGsとは、17のゴールと169のターゲットが定められた国際的な目標です。SDGsの目標には「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」があります。ウェルビーイングはSDGsにも言及されていることから、時代に沿った経営を行うためのキーワードです。
ウェルビーイングの必要性
経営者のみなさんは「健康や幸福が本当に生産性に影響するのか」と疑問に思うかもしれません。しかし、社員が幸福であると、下記のようなメリットがあります。
✅創造性が高い
✅うつになりにくい
✅パフォーマンス力が高い
✅離職しにくい
✅組織を生かす
✅健康で長寿
✅利他的
社員の幸福度が上がると、生産性に大きく影響します。また、勤務状況・従業員のモチベーション・定着率なども挙げられるのです。このことからウェルビーイングを注視する経営者が増えています。
従業員のウェルビーイングが生産性に影響?
従業員のウェルビーイングが生産性にどのような影響を与えるのか具体的に紹介します。複数の機関が行ったウェルビーイングに関する調査統計データをもとに、生産性とのつながりを参考にしてください。
幸福度の高い人は、創造性3倍・生産性31%向上、売上も37%高くなる
主観的幸福度の高い人はそうでない人に比べて、創造性・生産性・売上の3つにおいて高い傾向にあるという研究データがあります。さらに幸福度が高い人は、転職率・離職率・欠勤率も低いということが分かっています。参考:米イリノイ大学の論文より(心理学部名誉教授エド・ディーナー氏論文)
心身の健康が生産性を支える
健康的な食生活を続けている場合➡パフォーマンスが25%高まる日常的に運動をしている場合➡パフォーマンスが15%高まる
食事・運動に気をつける労働者➡欠勤の確立が27%低い
参考:ブリガムヤング大学(健康習慣が労働者に与える影響を調査)
ストレスやメンタル不調を抱えた従業員の生産性は35%低下
アメリカ精神医学会は、気分の落ち込みを放置すると生産性が35%低下すると示唆しています。心身共に幸福であること・健康であることが生産性向上のための重要なポイントです。では、ウェルビーイングを経営で生かすにはどうしたらよいでしょうか。
従業員の良い状態(ウェルビーイング)であることが、企業の目的や業績(ウェルドーイング)につながる取り組みを重要となるでしょう。
幸福度が低い日本人
自社でウェルビーイングを推進していく上で知っておきたいのが、日本人は自己肯定感が低く、ウェルビーイングを感じにくいことです。日本では、ウェルビーイングを感じている人が少ないというデータがあります。米国ギャラップ社がまとめた「世界幸福度ランキング」では先進国であるにもかかわらず、幸福度が低いことが分かっています。
日本の幸福度は2019年調査において58位(世界156国中)
参考:ギャラップ・ワールド世論調査のデータ
物質的に豊かであっても、自身の生活や働き方などに幸せを感じにくいということです。そのため企業は、どのようにして良い組織を作っていけばよいでしょうか。
「働き方改革に取り組んで、長時間労働の是正や産業医の強化も行った」
「健康経営を推進して、ストレスチェックや福利厚生も見直した」
など、これまで多くの企業が課題や制度を見直してきたことでしょう。
しかしウェルビーイングでは、各個人の幸福度や満足度に向けた対策が必要です。
コストゼロ!ウェルビーイング導入の3ステップ
ステップ1:ピーク・エンドの法則を意識する
「ピーク・エンドの法則」をご存じですか?ある経験の満足度は、感情が動いた最高または最低のピークの場面と終わりがけ(エンド)によって決定されるという法則です。
例えば、1日最高のデートをしたとしても、別れ際にケンカしてしまったらその1日の満足度は下がります。
ビジネスの場合においては、プレゼンが上手くいき満足していても、仕事の最後にできなかった業務(結果)に気づいてしまうことで評価が下がってしまうことです。
あなたの会社では、仕事の終わりにどんな振り返りを意識していますか?
仕事終わりには、「すべきこと(To Do)」の振り返りではなく、1日の終わりに「何を感じたか(評価)」など印象を振り返ってはいかがでしょうか。ピーク・エンドの法則によると、1日の評価の大部分は終え方(エンド)で決まります。印象を振り返ることで、1日の評価が向上します。
よりよく生きる幸福な日々(ウェルビーイング)は、「今日」という一日の積み重ねなのです。
ステップ2:雑談を大切にする
雑談は一見無駄に思えるかもしれませんが、ポジティブな人間関係を築くという点でとても大切です。近年業務が効率化され、コミュニケーション不足が問題となっており、メンタルヘルス不調を訴える人も増加しています。米国ギャラップ社の幸福度調査では、「体験」と「評価」を調査軸としています。
「体験」に関係する質問は以下の通りです。
【5つのポジティブ体験】
✅よく眠れた✅敬意をもって接された
✅笑った
✅学び・興味
✅喜び
【5つのネガティブ体験】
✅肩こり腰痛など体の痛み✅心配
✅悲しい
✅ストレス
✅怒り
ポジティブ体験の中で健康や生産性に効果的なのは、「敬意をもって接された」「雑談の中で笑った」です。雑談しやすい環境であることには、次のようなメリットがたくさんあります。ぜひ職場での雑談の時間を増やしてはいかがでしょうか。
- 相談がしやすい環境になり、仕事の成果につながる
- 息抜きすることによって、集中力が向上する
- 職場のメンタルヘルス向上につながる
ステップ3:信頼し合える組織となる3つの質問
神経経済学者のポール・ザックは、成果を上げる組織には「信頼の文化」があるとしています。そして次の信頼を生む3つの質問によって、信頼し合える組織へと近づくことを提唱しています。Q1.仕事は順調ですか?
「日々の仕事で、学びや変化はあるか」の問いかけQ2.志事は順調ですか?
「あなたの人生は、前に向かっているか」の問いかけQ3.私事は順調ですか?
「あなたや家族は健康ですか・幸せですか」の問いかけ質問者が部下に尋ねる場合は、まずは自己開示が大切です。信頼とは、過去の実績を判断材料とせず、相手との感情的な結びつきであることです。3つの質問によって「敬意をもって接してもらえた」など自分への評価に通じるでしょう。
ウェルビーイング導入企業の事例
トヨタ自動車株式会社「幸せを量産する」
トヨタ自動車は、国よりいち早く「ウェルビーイングを追求する経営理念を中核におく宣言」をしました。「車を量産する」会社ではなく、「幸せを量産する」ことを新しいミッションとして位置付けている企業です。ケーズデンキ「がんばらない経営」
家電量販店のケーズデンキは、競争激化が続く業界で「がんばらない経営」というユニークな方針を打ち出しました。残業なし・ノルマなし・無理をしないなどの経営戦略を立てています。それにより、販売員がのびのびと働けるようになり、丁寧な接客によって高額商品の売り上げが伸びた成功事例です。コロナ禍にもかかわらず2021年3月の連結決算には過去最高利益を記録しました。
このまま右肩上がりを目指すかというと、その方向には行かず「がんばらないことを継続する」と宣言しています。
競争が厳しい時代だからこそ「あるがままでやっていく」ことを大切にすることで、社員がウェルビーイングな人生を送っていくことにつながるのではないでしょうか。
ウェルビーイングを取り入れて、持続可能な経営と幸福な働き方を実現しよう!
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