• 健康経営
  • 2022.07.28

従来のうつ対策ではもう限界!うつ病社員を出さないための対策と適切な対応方法

うつ病
目次
あなたの会社の人事担当者は、うつ病社員の対応に頭を悩ませてはいませんか。 うつ病の兆候の社員がいれば、早い段階で適切な対応をすべきです。対応が遅くなると症状も悪化し、会社の責任問題に発展するトラブルになりかねません。 企業としては、従業員に対するメンタルヘルス対策を行い、うつ病の社員を出さない仕組みづくりが不可欠です。 そこで今回は、企業で行うべき社員のうつ病対策と対応についてご紹介します。

メンタルヘルス対策が会社に必要な理由

うつ病社員の対応

休職・復職を繰り返す社員の対応に悩んでいる企業は多いのではないでしょうか。うつ病は再発しやすい病気です。1度うつ病になると、6割が再発します。休職期間を経て、復職してもうつ病を繰り返すことがあります。 もし職場でメンタル不調で悩んでいる社員がいれば、できるだけ早期に適切な対応が重要です。社員に次のような兆候を感じたら、社員のうつ病を疑いましょう。

  • 遅刻や早退・欠勤することが増えた
  • ミスや事故の増加
  • 仕事の能力低下が見られる
  • 口数が減り、周囲とのコミュニケーションをとらない
  • 元気がなく、表情も暗い
  • 体調不調の訴えがたびたびある
うつ病の兆候がある場合、次のことに注意して接することが大切です。
  1. 社員からの相談には誠実に向き合う
  2. 安易に励ますことを避ける
  3. 仕事内容を調整する
メンタルヘルス対策を進めていくうえで、職場環境による問題であれば、早期に対応すべき課題です。しかし問題が職場以外であることもあり、それぞれが複雑に絡みあっています。厚生労働省では、「労働者の心の健康保険維持のための指針」において、次のように示しています。
心の健康問題の特性
メンタル不調の発生過程は、個人差がありプロセスの把握が困難
人事労務管理の関係
 職場配置・人事異動・職場の組織などの人事労務管理と密接に関係
人事労務管理と連携しなければ適切に進まない場合が多い
 職場以外の問題(家庭・個人生活)
職場におけるストレスだけでなく家庭・個人生活などの職場以外のストレス要因の影響も考慮する必要がある
個人情報保護への配慮
効果的にメンタルヘルス対策を進めるにあたり、個人情報の保護や個人の意思の尊重に注意することが重要となる
参考:厚生労働省「労働者の心の健康保持増進のための指針」

 企業のリスクを最小限に抑えるために、メンタルヘルス対策を行う企業が増えてきています。メンタル対策を企業が行うことによるメリットは次のとおりです。

①生産性の向上【うつ病を放置すれば生産性低下33%】

うつ病を治療しないと生産性が33%低下することがカナダの研究で明らかになっています。(カナダ・トロント「依存症・メンタルヘルス研究センター」キャロリン・デワ氏らの研究)
参考文献:うつ病が生産性を低下 半数がメンタルケアの必要性を認識していない
うつ病社員の生産性が低下する原因は、次の通りです。
  • 疲れやすさ・判断力・集中力・モチベーションの低下
  • 従来の業務が困難になること
  • 遅刻・欠勤が増える
メンタル不調者の業務のしわ寄せが他の社員へと影響し、会社全体の生産性低下につながります。メンタルヘルス対策は、生産性低下を防ぎメンタルヘルス不調を防ぐ取り組みといえるでしょう。

②リスクマネジメント

労働災害防止の観点からも、メンタルヘルス対策は重要です。うつ病の悪化が、会社の責任問題に発展するケース(安全配慮義務違反)も考えなければなりません。事故の発生リスクや会社の責任義務リスクを軽減させるためにも、メンタルヘルス対策は必要です。

③職場環境の改善

社員がうつ病に陥ると、本人だけでなく一緒に働く人たちのモチベーション低下につながります。周囲の人が「どう対応したらよいか」と悩むこととなり、コミュニケーション不足を招くでしょう。職場全体のメンタルヘルス増進を図ることは、社員の満足度と労働生産性が高い職場環境の構築が期待できます。

④休職者・離職率低下

うつ病による長期休職者や離職が発生することにより、新規雇用が必要になり会社の負担も増加します。メンタルヘルス対策は、このような経営リスク防止にも役立つでしょう。

うつ病不調者を出さない最善の対応策とは?

うつ病対策

職場のメンタルヘルス対策で主に行われるのが、ストレスチェックです。2015年12月から年1回の実施が義務(50名以下の事業は現在努力義務)付けられました。ストレスチェック制度施行後、一時的にメンタルヘルス不調の数は減少しましたが、近年うつ病は増加し続けている状態です。メンタルヘルス不調対策は、メンタルヘルス不調を出さない取り組みが非常に重要です。職場におけるメンタルヘルス対策の流れ
0次予防:メンタル不調者を出さない(組織診断・職場環境の改善・生活習慣の改善)
1次予防:ストレスチェックの実施(メンタルヘルス不調を未然に防ぐ)
2次予防:メンタル不調者の早期発見(セルフチェック・管理監督者による対応)
3次予防:メンタル不調による休業から復職への支援
メンタルヘルス対策で一番効果的なのは、0~1次予防に注力することでしょう。健康経営に取り組む企業では、セミナーなどによる情報提供でメンタルヘルスについて理解を深めています。

①健康経営の推進

健康経営は、うつ病不調者を出さない先進的な取り組みです。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的視点で捉え、戦略的に実践する経営戦略として経済産業省が推進しています。

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うつ病の社員が増えることは、企業の成長を妨げる大きな課題となるでしょう。健康経営の基本的な考え方は、いかに健康で長く働いてもらうかという視点での取り組みです。そのためメンタルヘルス対策にも力を入れています。
職場環境の改善を行っても、従業員自身の私生活上の問題が解決できていなければ対策として効果はあげられません。 メンタルヘルス対策だけでなく、総合的な健康支援として次の取り組みを注視ししましょう。

バランスのいい食事

従来では食事指導を会社が行うという概念はありませんでした。しかし、バランスのいい食事に気を配ることで、心身の不調が起こりづらく、生産性向上に結びつきます。

質のいい睡眠をとる

睡眠不足の状態では、脳がしっかり働かず生産性が著しく低下します。ノー残業デーを設けるなどの働き方改革を積極的に行っています。

運動不足を解消する

適度な運動によって、ストレスの緩和に役立ちます。自律神経のバランスが整うことにより、メンタルヘルス不調予防につながります。

マインドフルネス

リラックスできない状態が続くことにより、ストレスを抱えやすくなります。職場内で呼吸を意識したマインドフルネスを取り入れる企業も増えています。

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上記の取り組みと並行して行うと効果的なのが、社員の健康意識向上をさせるセミナーや研修の実施です。従業員自身が健康意識を高めていくことにより、行動変容が期待できます。
生活習慣の乱れは、社会人の健康問題そのものです。その結果、心身の健康問題が多発しています。一日の大半を過ごす職場環境の影響を受けやすいものです。メンタルヘルス不調対策では、0次予防がもっとも重要で、費用対効果が高いといえるでしょう。

②ストレス耐性診断

近年は、新型うつと言われる従来型ではない社員のうつ病に、悩まされる人事担当者も多いのではないのでしょうか。そこで事前予防策として、採用面接にストレス耐性チェックを行う企業も増えてきています。

人事担当者を悩ませる「新型うつ」とは?

新型うつとは、一般的なうつ病のケースに当てはまらないものを指します。新型うつ病の特徴は次のとおりです。

  • 自分の好きな仕事・活動の時だけうつ病の症状が軽くなる
  • うつ病で休職することにあまり抵抗を感じていない
  • 社内制度を良くチェックして、上手に利用する傾向がある
  • 疲労感や不調を訴えることが多い
  • 失敗や不幸を他者のせいにしがち
  • 真面目で負けず嫌いな性格

仕事のミスマッチを防ぐ事前防止対策

企業でうつ病の負のスパイラルを繰り返さないために、ストレス耐性チェックを行う企業が増えてきました。 特に入社3年目の社員は、業務量や責任が増すことによってストレスが高くなり、離職率が高くなる傾向です。ストレス耐性は、困難にぶつかった時に、ストレスとうまく向き合ってくれる人材かどうかの判断材料として活用されています。
✅メンタルヘルスで気になる点はないか
✅職場の人間関係をスムーズに構築できるか
✅早期離職の可能性はないか
✅業務への適性はあるか
ストレス耐性を把握することで、企業は採用時に人材のミスマッチ防止や個人の資質にあった業務配置が可能です。うつ病不調者の社員を出さない対策として、ストレス耐性を把握し、それぞれ適した業務に就くことが大切でしょう。

うつ病対策を行う企業の具体例

具体例

メンタルヘルス対策で成果を上げている企業には、どのような取り組みがあるでしょうか。具体的な取り組みを紹介します。
自社でメンタルヘルス対策を取り入れる際に、企業の取り組み事例を参考にしてはいかがでしょうか。

株式会社パソナグループ

(株)パソナグループでは、生活習慣改善に着目した健康経営の実践を推進しています。生活習慣の乱れが引き起こす仕事へのパフォーマンスを分析し、データを活用した取り組みが特徴的です。オンラインやアプリを活用し、食事・運動・睡眠などの健康管理を推進しています。独自調査の成果測定でも「心が落ちついた」が多く、取り組みがメンタルヘルス対策につながっていることが分かります。
ライフスタイル調査と生産性など、メンタル面と深い関連性データ化
✅生活習慣病Xアブセンティーズム・プレゼンティーイズム
✅食事習慣Xアブセンティーズム・プレゼンティーイズム
✅運動習慣Xアブセンティーズム・プレゼンティーイズム
✅睡眠習慣X
アブセンティーズム・プレゼンティーイズム
参考・出典:パソナグループ健康宣言

株式会社イトーキ

(株)イトーキでは、健康経営の取り組みを軸に、イトーキオリジナルアンケートも実施するなどメンタルヘルス対策に注力しています。特に未然防止に力を入れており、社員が自己学習する場を提供するなど工夫しています。再休職を防ぐために人事部・健康管理室が連携しサポートする体制を構築し、再休職を防ぐための体制が整備されています。
㈱イトーキのメンタルヘルス対策
✅精神科産業医の定期面談の実施
✅社外リワーク施設の利用
✅復職前の慣らし出勤
✅社内カウンセリングの実施
 参考・出典:株式会社イトーキ【メンタルヘルス】

味の素株式会社

味の素(株)では、再発率ゼロを目標とした「メンタルヘルス回復プログラム」という独自のプログラムを導入しています。社員が自身の性格や価値観を客観的に見直し、復帰を前提としたトレーニングを支援しています。うつ病社員を特別扱いせずに、再発を防ぐために「痛みにくい心」をつくることに注力している取り組みです。
復職まで5つのステップを丁寧に踏むことにより、うつ病の再発を限りなく減らしています。その取り組みの根底には、健康経営の取り組みがあり、健康経営銘柄に2017年以降毎年選出されています。味の素(株)は、セルフケアの徹底と充実のサポート体制によって、メンタルヘルス対策を先進的に行っている企業と言えるでしょう。
「メンタルヘルス回復プログラム」復職まで5のステップを丁寧に踏む
✅ステージⅠ:症状改善期(治療に専念)
✅ステージⅡa:性格確認期(再発防止策として自己の性格を見つめなおす時期)
✅ステージⅡb:自分軸構築期(価値観や性格を自覚する時期)
✅ステージⅢ:シュミレーション期(復職後のあるべき姿を考え、無理のない復帰をめざす時期)
✅ステージⅣ:治療出社期(慣らし出勤)
✅ステージⅤ:再就業期(上司・産業医・本人の3者面談)
参考・出典:味の素会社【メンタルヘルス回収プログラム】

社員にうつ病の症状が出た時にとるべき5つの対応【就業規則がポイント】

チェックリスト 社員にうつ病の症状が出た時にとるべき5つの対応を解説します。すべての対応について就業規則に基づいて行い、合意した内容を文章に残しておくことが重要です。

①できるだけ早く医師の診断を受けさせる

「もしかしたら、社員がうつ病かも」と感じたら、できるだけ早く医師の診断を受けることが重要です。万が一、本人が病院に行きたがらない場合の対策も考えておくべきでしょう。業務命令として受診を促すことや家族の協力を得るなど、会社としても早期受診促進に協力する必要があります。あらかじめ就業規則に定めておくなどの事前対策も重要です。医師の診断で重要なポイントは、仕事ができる状態か、休業すべきかを明確にすることです。

②社員が休職する場合は就業規則を正しく説明する

社員が休業する際に、就業規則を正しく説明することが非常に重要です。トラブルを避けるためにも、書面を用いて説明し、理解してもらうことも大切です。次の7つのポイントに注意して、社員に説明する必要があります。
  1. どのような場合に休職を認めるか(休職開始事由)
  2. 休職期間がどのように定められているか(就業規則上の期間)
  3. 休職期間中の休養について(給与や傷病手当金)
  4. 社会保障の負担について(請求方法についての確認)
  5. 休職期間中の会社との連絡(定期連絡・診断書の提出)
  6. 復職する場合の規則(医師の診断書提出や面談の有無)
  7. 休職期間中に復職が困難な場合の手続き(解雇あるいは自動退職)

③社員の有給休暇の日数を確認し、有給休暇消化を促す

医師の診断によって、休職が必要ということであればまずは有給休暇消化を促しましょう。休職期間中は無給となるため、休職者の収入面の不安解消につながります。有給休暇の届け出は、求職者本人に提出してもらう必要があります。

④休職が必要な場合は、速やかに業務の引継ぎを行う

休業の必要がある場合は、できるだけ最低限の引継ぎをし、速やかに休職させる対応が求められます。引継ぎがうまくできず、休職が遅れることによりうつ病の症状が悪化する可能性があるでしょう。

⑤労務環境に問題がなかったかを確認する

うつ病の原因が、長時間労働やパワハラなど会社側の問題によるものなのかをチェックする必要があります。労務環境に問題点がある場合は、直ちに改善し再発防止に努めることが重要です。

うつ病の社員に対してNGな対応とは?

社員のうつ病 メンタル不調の兆候が出た社員にしてはいけない対応は、次の2つです。

うつ病の診断書が出ている社員に仕事をさせてはいけない

休職が必要な社員に仕事をさせた場合、会社は損害賠償責任を問われる可能性があります。労災認定につながるケースもありますので、できるだけ早く休職手続きを行いましょう。

うつ病を理由に解雇してはいけない

うつ病などのメンタル疾患で解雇することはできません。メンタル疾患の理由で、解雇することは不当解雇と判断される可能性があるので注意が必要です。

うつ病対策は、事前の予防策と適切な対応が企業のリスクヘッジになる

今回は社員のうつ病対策について解説しました。うつ病社員を多く抱えることは、会社の成長を妨げ、会社全体の生産性に影響を及ぼします。うつ病社員に対する適切な対応と同時に、メンタルヘルス不調に対する予防策が非常に重要です。ぜひ今回の記事を参考に、メンタルヘルス対策を検討してみてはいかがでしょうか。

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